リブランディングの成功と失敗を分けるもの。事例研究から学ぶ10のポイント

リブランディングは単なるデザインの更新や名称の変更ではありません。

「企業はこれから何を目指すのか」「どんな価値を提供する存在でありたいのか」という、ブランドの根幹にあるストーリーや信念を再定義するプロセスです。

そしてそれは、内部(社員)と外部(顧客・取引先など)の両方に浸透してはじめて、本当の効果を発揮します。

ところが、多くの企業がこのプロセスのどこかでつまずいています。

例えば、「新しいロゴはかっこいいけれど、社内では誰もその意味を説明できない」「顧客には変わったことがうまく伝わっておらず、逆に混乱を招いている」といった状況が見られます。

リブランディングを行ったものの、十分な成果が得られないどころか、逆効果になってしまうケースも少なくないのです。

では、リブランディングが成果につながる企業と、そうでない企業では、何が違うのでしょうか。

そこには予算の多寡や業界の特性だけでは説明できない、成功と失敗を分ける要因が存在しています。

リブランディングの成否を分ける10のポイント

リブランディングに成功する企業と失敗する企業は何が違うのかを検証した、スウェーデン王立工科大学のグスタフ・ケルリンによる調査があります。

この調査では、実際の企業が行ったリブランディングの事例を詳しく調べています。

調査対象となったのは、建設業、不動産、メディアなどの分野で、それぞれ会社の規模や目的、業種が異なる企業です。

この調査の結果、リブランディングの成功と失敗を分ける要因として、次の10個のポイントが判明しました。

1. 適切なネーミング戦略があるか

リブランディングにおいて、企業名やブランド名をどう変更するかは非常に重要なポイントです。

成功している企業では、社名の変更やロゴデザインの更新が、企業の新たな方向性やビジョンとしっかり結びついていました。たとえば、企業のグローバル展開を目指す場合、より国際的に通用する名前を選ぶことで、社員や顧客に新たなイメージを自然に印象づけていました。

失敗事例では、企業の過去やアイデンティティを無視する形で急に名前を変更したため、社内外で「なぜ変える必要があったのか」という混乱や不信感が生まれました。また、ロゴやスローガンの急激な変更が、従来の顧客に「知らない会社になってしまった」と感じさせてしまい、ブランド離れにつながるケースもありました。

2. 過去のブランド要素を活かしているか

リブランディングに成功している企業では、過去のブランド要素を「完全に捨てる」のではなく、「意味のある形で残す」という工夫が見られます。

旧ロゴの配色やフォントを一部取り入れたり、これまでのスローガンの精神を引き継いだ新しいキャッチコピーを使用したりすることで、既存の顧客や社員が「これは自分たちのブランドだ」と感じやすくなっていました。こうしたブランドの連続性があることで、変化の中にも安心感が生まれます。

逆に、過去の要素を完全に排除し、「まったく新しいブランド」として一からやり直そうとした企業では、社員のモチベーション低下や、長年の顧客からの不満が多く見られました。「以前の私たちを否定された」と感じることが、反発や距離感を生み出してしまったのです。

3. 十分な準備と計画が行われているか

リブランディングは一夜で完了するものではなく、事前の入念な計画が不可欠です。

成功事例では、ブランド変更の目的、スケジュール、関係者への伝達方法、切り替えにかかるコストやリスクなどが明確に整理されており、それに基づいて段階的に実行されていました。

例えば、まずは社内でブランドの意味を浸透させ、その後に外部への発信を始めるという順序が守られていました。また、社内研修やマニュアル整備を先に行い、社員が新しいブランドを自信を持って使える状態を作ってから正式に導入されていました。

失敗事例では、こうした準備が不十分なまま新ブランドが発表され、社員が対応に追われたり、営業資料やウェブサイトの更新が間に合わなかったりする混乱が起きていました。計画不足によって、リブランディングが「混乱の種」になってしまったのです。

4. 社員の協力を得られているか

ブランドはロゴやスローガンだけでなく、それを日々使い、顧客と接する社員の行動によって形作られます。

成功している企業では、社員が新しいブランドの価値やメッセージを理解し、自ら進んで伝えようとしていました。社内で説明会やワークショップを開き、社員からの意見を取り入れるなど、双方向のコミュニケーションが行われていたことも特徴です。

逆に、リブランディングがトップダウンで進められ、現場に十分な説明もないまま突然ブランドが変更されてしまった企業では、社員の反発や無関心が目立ちました。「よくわからないけど上が決めたから仕方ない」という状態では、新ブランドが社内に定着せず、顧客にも魅力が伝わりません。ブランドの成功は、現場の協力なしには実現しないのです。

5. ブランドの意義を社内で共有できているか

「なぜリブランディングをするのか」「新しいブランドで何を伝えたいのか」という核心部分が、社内でしっかり理解されていることは非常に重要です。

成功した企業では、経営陣がブランドの背景や狙いを繰り返し丁寧に説明していました。社員一人ひとりが「自分の仕事がブランドの一部である」と感じられるようになった結果、日常業務にブランドの意識が自然に取り入れられていました。

一方、失敗した企業では、この「ブランドの意味」があいまいなまま進行したため、社員によって受け止め方がバラバラになってしまいました。営業部門では「売上向上のためのリブランディング」と捉えられていた一方で、開発部門では「働き方改革の一環」と理解されていた、というように共通の認識が持てていない状態でした。

6. 社内での進め方が明確か

リブランディングの成功には、「どのように進めるか」というプロセスの設計が大きく影響します。

成功企業では、ブランド変更に関わる一連のステップが明確に整理されており、「何を」「いつ」「誰が」「どのように」行うかが社内全体で共有されていました。

ロゴやWebサイトの変更、名刺や社内資料の更新、顧客向けの案内文の配信時期などがあらかじめスケジュール化されており、全社員がそれに沿って動いていたのです。このような段階的かつ計画的な実施により、大きな混乱を避けることができていました。

失敗事例では、計画が不明確で、社員が「いつ何をすればいいのか」がわからず、現場が混乱しました。情報の行き違いや、ブランド変更のタイミングのズレが起きたことで、顧客への説明がバラバラになったり、旧ロゴと新ロゴが混在する事態が続いてしまったりしました。

手順が整理されていないと、結果的に社内外で信頼を損なうことになります。

7. 信頼されるリーダーがいるか

リブランディングは社内全体に影響を与える大きな変化です。そのため、方向性を示し、社員を導くリーダーの存在が不可欠です。

成功した企業では、経営者やプロジェクト責任者が自らリブランディングの意義や目指す姿を語り、社員の質問に丁寧に応じるなど、信頼を築いていました。

特に効果的だったのは、トップが現場に足を運び、対話の場を設ける姿勢です。こうした行動によって、「この変化は会社のためでもあり、自分たちのためでもある」という納得感が社内に広がっていきました。

一方、失敗したケースでは、リーダーが一方的に変更を決定し、現場の声を聞かずに進めてしまったため、社員との間に温度差や不信感が生まれました。

ブランドの刷新は、単なる業務命令ではなく、リーダーによる「ビジョンの共有」として行われるべきです。

8. 社内コミュニケーションが活発か

リブランディングに関する情報が社内にどれだけ行き渡っているかも、成功を左右する重要な要素です。

成功した企業では、社内向け説明資料や専用のFAQ、イントラネットでの特設ページなどを活用し、社員がいつでも必要な情報を確認できる仕組みが整えられていました。

さらに、各部署のミーティングや個別相談の場で、双方向のやりとりが行われ、社員からの疑問や不安にも丁寧に対応していました。こうしたコミュニケーションの積み重ねが、ブランド変更への理解と納得を深める原動力となっていたのです。

対照的に、失敗した企業では「知らされていない」「急に変わった」という声が多く、情報不足から誤解や不安が広がっていました。伝えるべきことを適切なタイミングで伝えないと、社内に混乱と抵抗が生まれます。

リブランディングにおいては、「伝えすぎるくらいでちょうど良い」と言えるでしょう。

9. 社内外のステークホルダーと連携できているか

リブランディングの影響は、社員だけでなく、顧客、取引先、株主など外部の関係者にも及びます。

成功企業では、これらのステークホルダーに対しても丁寧な説明や情報提供が行われており、ブランドの変化に対する信頼を維持していました。

顧客向けに新ブランドの意味を解説する特設ページを設けたり、取引先には事前に変更内容とスケジュールを知らせる文書を送ったりするなど、相手に応じた情報発信が工夫されていました。

失敗事例では社外への説明が後回しになり、混乱を招いたケースがありました。顧客から「これは本当に同じ会社なのか?」という問い合わせが殺到し、対応に追われることになったのです。

社内の合意形成と並行して、社外へのアプローチも忘れてはなりません。

10. 明確なブランドビジョンがあるか

ブランドには、「これからどこへ向かうのか」「どんな価値を提供するのか」といった将来像が必要です。これを「ブランドビジョン」と呼びます。

成功した企業では、このビジョンが明文化され、すべての社員がその方向性を理解し、自分の仕事とのつながりを意識できていました。

例えば「私たちはサステナブルな社会を実現する企業になる」といったビジョンがあれば、日々の業務やサービスのあり方もその目的に照らして考え直されます。こうした一貫性のあるメッセージが、社員の行動や顧客体験に反映され、ブランドとしての信頼を高める結果につながっていました。

反対に、ビジョンがあいまいなままブランドを変更した企業では、「何のために変わったのかがわからない」という社内外の反応が多く見られました。

ブランドは「ただの見た目」ではなく、「語れる物語」を伴ってはじめて価値を持ちます。

リブランディングは「ゴール」ではなく「スタート」

リブランディングを成功させるには、ロゴや社名といった見た目を変えるだけでは足りません。大切なのは、そのブランドに込めた意味や方向性を、社員一人ひとりが理解し、納得してくれていることです。新しいブランドが社内でしっかり受け入れられてはじめて、外部にも本当の価値が伝わっていきます。

また、ブランド変更を発表したらそこで終わりではありません。「リブランディングのその後」にどう取り組むかも重要なポイントです。

研究では、ブランド変更の「その後」にきちんと取り組んだ企業ほど、リブランディングの効果が長く、広く浸透していることが明らかになっています。

新しいブランドの価値観に合った行動をとった社員を社内で表彰する制度を取り入れている企業などもあります。こうした施策によって、ブランドは単なるスローガンではなく、日々の仕事の中で意識される「行動の基準」になっていくのです。

また、社外に向けても、ブランドの背景や考え方を、SNSやニュースレター、イベントなどを通じて繰り返し発信している企業ほど、リブランディングがうまくいっています。時間をかけてブランドの物語を伝え続けることで、顧客や取引先とのつながりもより深まっていくのです。

リブランディングは「ゴール」ではなく「スタート」です。新しいブランドを育て、広げ、根づかせていくプロセスの始まりにすぎません。

変えること自体が目的ではなく、その変化をどう定着させていくかという視点が必要です。

参考文献:A Case Study Exploring The Most Important Factors In Firm Rebranding.