オンラインショッピングで消費者が商品選びの参考にするのは、他の人が書いたレビューです。
Amazonや楽天のようなECサイトでは、レビューの数や評価が購買行動に大きな影響を与えます。
そのため、企業としては「とにかくレビューを増やしたい」と考えるのも自然なことです。
では、どうすればレビューは増えるのでしょうか?
多くの企業が試しているのが「無料提供によるレビュー依頼」です。
いわゆる「モニターキャンペーン」や「タダでもらえる代わりにレビューを書いてください」という手法です。
一見すると効果的に思えるこの方法ですが、本当にレビューの数や質、さらには評価の向上につながるのでしょうか?
Amazon Vineで集められたレビューを分析した結果
実際に投稿された約20万件のAmazon Vine(※1)のレビューを分析した、ベルク大学のイナ・ガーネフェルト教授らの研究があります。
この研究では、レビューが書かれた状況や商品そのものの特徴が、評価や質にどのような影響を与えているのかを統計的に検証しています。
その結果、無料提供された消費者と、お金を払って購入した消費者のレビューとの間で評価や質に大きな差は出ないことが分かりました。
無料提供してもらった商品だからといって、必ずしも高い評価のレビューを書いてもらえるわけではないということです。
しかし、条件によっては違いが出ることもわかりました。
たとえば、価格が高い商品では、無料で提供されたレビューのほうが評価も質も高くなる傾向がありました。
また、機能が複雑な商品では、レビューの内容が詳しくなる傾向があり、これもレビューの質を高める要因になっていました。
反対に、すでに多くのレビューが投稿されている商品に関しては、レビューの質が下がる傾向が見られました。
これは、「もう十分に情報がある」と感じたテスターが、あまり力を入れなくなってしまうためと考えられます。
なぜ高額商品を無料提供すると高評価レビューが集まるのか?
なぜ価格が高い商品では、無料で提供されたレビューのほうが評価や質が高くなるのでしょうか?
それは、「もらったものに対してお返しをしたい」という気持ち、つまり「返報性の原理」が働くためです。
人は、自分が得たものと相手に与えたものとのバランスを自然と意識します。
高価な商品をタダでもらった場合、何かしらのお返しをしようという気持ちが強くなります。
そして、レビューを書くことがそのお返しの手段となるシチュエーションでは、より丁寧に書いたり、高めの評価をつけたりする行動につながりやすくなるのです。
また、高価なものは「価値がある」と感じやすいため、自然と評価も高くなりやすいという側面もあります。
仮に多少の不満があったとしても、「タダでこれだけのものをもらえたのだから」と気持ちをプラスに解釈しやすくもなります。
つまり、高価な商品においては、感謝の気持ちと自己正当化の心理が重なり合うことで、ポジティブなレビューが生まれやすくなるということです。
さらに、高価な商品は機能が多かったり、使い方が複雑だったりすることもあります。そのため、しっかりと使ってからでないと評価しづらいため、テスターも真剣に使用します。
その結果として、レビューに盛り込まれる情報が多くなり、その質も高くなりやすいのです。
無料提供しても悪いレビューを書かれる心理的要因
一方で高価な商品以外では、無料提供しても高評価を得られないのはなぜでしょうか?
それは、無料で受け取った全員の心理が同じ方向に働くわけではないからです。
たしかに、高価な商品でなくとも、「無料でもらったから丁寧に書こう」「高く評価しよう」と考える人もいます。
しかし、「レビューを書かされている」と義務感を持ち、自分の自由が制限されたような感覚になってしまう人も一定数いるのです。
人は、無理矢理やらされていると感じると、その行動に対してやる気を失ったり、反抗的な気持ちになったりすることがあります。
つまり「本当は書きたくないけど、書かなきゃいけないから仕方なく書く」といった気持ちでレビューを書くと、無意識に評価も厳しくなったり、文が雑になったりするということです。
また、提供された商品が思ったほど良くなかった場合、「タダでもいらない」と感じる人もいます。
このとき、無料でもらったことによってポジティブな感情になるどころか、逆に期待とのギャップが強調され、低評価につながることもあります。
無料であることが必ずしも好意につながるわけではなく、不満を強く感じる材料になる場合もあるのです。
こうした傾向は、製品テストプログラムに参加した人を対象としたインタビュー調査でも明らかになっています。
製品モニターを活用する場合のポイント
今回の研究は、無料提供によるレビュー集めが必ずしもプラスの結果をもたらすわけではないことを明らかにしました。
マーケティング施策として製品モニターを活用する場合は、価格帯、商品特性、レビューの蓄積状況といった文脈要因を見極めることが重要なのです。
さらに見逃せないのは、レビューを書く人の「心理状態」がレビューの結果に大きく影響するという点です。
無償提供によって感謝が生まれれば良質なレビューになりますが、義務感やプレッシャーが強ければ逆効果になりかねません。
これは、金銭的なインセンティブを利用する場合にも共通するポイントです。
今後、レビュー施策を設計する際には、「どの商品を」「誰に」「どのタイミングで」届けるかだけでなく、「どのように感じさせるか」という点も含めて考える必要があるでしょう。
レビューはただの数値の指標ではなく、ユーザーとの関係性を映す鏡でもあります。
短期的な数集めではなく、長期的な信頼獲得を見据えた施策として、レビュー戦略を再構築しましょう。
参考文献:Garnefeld, I., Krah, T., Böhm, E. et al. (2021). Online reviews generated through product testing: can more favorable reviews be enticed with free products?