サステナブルファッションと消費者心理。なぜポジティブメッセージが行動を生むのか

「サステナブルファッション」という言葉が、ここ数年で社会に広く浸透してきました。

環境への負荷を減らし、資源を循環させるライフスタイルが注目される中で、ファッション業界も大きく変化しつつあります。

特に若年層を中心に、「新しく買うよりも、長く使う」「使い終わったら再活用する」といった価値観が広がり、リサイクル素材や中古衣料を取り入れる人たちも増えています。

企業側も、サステナブルな取り組みを積極的にアピールし、専用のアプリやキャンペーンを通じてその価値を伝えようとしています。

実際に、中古品を販売するオンラインプラットフォームや、服の回収プログラムを導入するアパレル企業も増えてきました。

ですが、こうした努力が必ずしも「消費者の行動」につながっているとは限りません。

どれほど優れた商品や仕組みがあっても、人の心を動かすことができなければ、サステナブルな選択は選ばれないままになってしまいます。

地球環境が破壊されていることを伝えるだけでは、行動を変えるには力不足な場合もあるのです。

消費者がその行動を「自分のこと」として受け止め、自ら進んで取り組もうと思えるようにするには、どのような伝え方が効果的なのでしょうか。

「地球にやさしい」vs「環境が破壊されている」

ポジティブなメッセージの広告とネガティブなメッセージの広告では、どちらが購買意欲を高めるのかを調べた、モデナ・レッジョ・エミリア大学のシルビア・グラッピ教授らの実験があります。

この実験では、18歳から40歳の若者125人を対象に、中古衣料アプリの広告を見せて、それを評価させています。

参加者は3つのグループに分けられ、以下の広告のうちどれか1つを見せられました。

  • ポジティブな広告:例「このアプリを使えば環境に良い影響を与えられます」
  • ネガティブな広告:例「新品ばかり買っていると、地球環境が破壊されます」
  • 中立的な広告:例「ファッションを楽しみながら、お得に買い物ができます」

これらの広告を見せた後で、参加者の行動意図がどう変化したかを回答してもらったところ、ポジティブな広告を見た人々は、中古衣料を購入したいという意図や、それを他人にすすめたいという気持ちが明確に高まることが分かりました。

一方で、ネガティブな広告の効果は限定的でした。

広告を倫理的だと感じた人に対しては、ある程度行動意欲の向上が見られましたが、そうでない人にはほとんど影響を与えなかったのです。

つまり、ネガティブな訴求は、受け取り手の価値観や倫理観に強く依存するため、広告全体の効果としては不安定であるということです。

「感動」に訴えるか「罪悪感」に訴えるか

次の実験では、広告メッセージがどのような感情を引き起こし、それがサステナブルな行動にどうつながるかを調べました。

特に、「感動(elevation)」と「罪悪感(guilt)」という2つの感情に注目しています。

実験参加者は、前の実験と同様に、中古衣料アプリの広告を1つ見せられました。

広告は「ポジティブ」「ネガティブ」「ニュートラル」の3種類に分かれており、どれか1つがランダムに提示されました。

「感動」のほうが効果的

広告を見たあと、参加者は「この広告を見て感動したか」「罪悪感を感じたか」といった感情について答えました。

また、「このアプリで中古服を買いたいか」「他の人にも勧めたいか」「もっと情報を知りたいか(メールアドレスを入力するか)」「環境活動にボランティアとして関わりたいか」など、4つの行動についてもたずねられました。

参加者の回答を分析したところ、ポジティブな広告を見た人の多くが「感動した」と答えており、この感動が4つの行動すべてに強く関係していました。

実際にメールアドレスを入力した人も、ポジティブな広告を見たグループに多く見られました。

つまり、感動がサステナブル行動への直接的なきっかけになっていたのです。

一方、ネガティブな広告では「罪悪感」を感じた人もいましたが、それが必ずしも行動に結びつくわけではありませんでした。

環境団体などへのボランティア参加の意向が高まるくらいでした。他の3つの行動にはあまり影響が見られませんでした。

「倫理的だ」と感じさせるべきか

さらに、広告に対して「倫理的だ」と感じたかどうかが感情の強さに影響していることも分かりました。

ネガティブな広告で感動が生まれるには、広告が「倫理的」と感じられることが条件でした。

しかし、ポジティブな広告では、そうした倫理的評価に関係なく、多くの人が感動していました。

この実験から、「感情」と「広告の受け止め方」が、サステナブルな行動に関係していることが明らかになりました。

特に、ポジティブな感情である「感動」が、強力な行動の後押しになることが実証されたといえます。

ポジティブメッセージがサステナブル行動を喚起する理由

なぜポジティブな広告が中古衣料を買うというサステナブルな行動を喚起するのでしょうか?

それはポジティブなメッセージには、「あなたの行動が社会を良くします」「この選択は素晴らしいことです」といったメッセージが含まれているからです。

そのため、見る人に誇らしさや共感、前向きな気持ちを抱かせやすくなります。

そして、そのポジティブな感情が購買意図や情報収集、さらには実際の行動へとつながっていくのです。

広告によって感動を覚えた人は、「これは自分にもできる良いことだ」と思い、自発的に動こうとします。

強制されたり責められたりすることなく、前向きな気持ちで行動を選べる点が、ポジティブ・メッセージの大きな強みです。

ネガティブメッセージは反発を招く

反対に、ネガティブな広告メッセージでは、「あなたが行動しないことで環境が悪化します」「このままでは社会が損なわれます」といった表現が使われます。

こうしたメッセージは、一部の人には効果があるかもしれませんが、多くの人にとっては「責められている」と感じさせるきっかけになります。

その結果、防御的になったり、無視したり、広告そのものに嫌悪感を抱いたりする可能性が出てきます。

ときには、「命令されているようで不快だ」「こんな広告に従いたくない」といった反発心が生まれ、かえって行動を避けてしまうことさえあります。

心が動く体験でサステナブルファッションを広める

サステナブルファッションを広げていくためには、製品や仕組みの工夫だけでなく、人の心に届く伝え方が欠かせません。

この研究からわかるのは、行動を変えるきっかけになるのは「知識」よりも「感情」、特にポジティブな感動であるということです。

人は、自分の行動が誰かや社会の役に立つと感じたときに、自然と前向きに動き出します。

また、この研究では、広告を見た人が実際にメールアドレスを入力して情報を求めたかどうかといった、具体的な行動も測定されています。

つまり、「いい話だった」で終わるのではなく、「行動に移す人」が増えていることがデータで示されているのです。

これは、広告やメッセージの力が、現実のアクションにつながることを明確に示しています。

サステナブルファッションを広めていくには、正しさを押しつけるのではなく、心が動く体験を届けることが大切です。

感動が生まれたとき、人は行動を自分の意思で選びます。その小さな一歩が、より持続可能な未来をつくっていく力になるのです。

参考文献:Silvia Grappi, Francesca Bergianti, et al. (2024). The effect of message framing on young adult consumers’ sustainable fashion consumption: The role of anticipated emotions and perceived ethicality.