広告の一番の目的は、「消費者に金を出させる」という、ちょっといかがわしいものです。
当然、消費者もそのことに気がついています。
なので、企業としては、広告であることを隠したい気持ちが働きます。
ステルスマーケティングなどというのも、こういった心理からくるものです。
しかし、あえて「これは広告です」と堂々と宣言してしまったほうが、問い合わせや売上につながることもあります。
なぜなら、広告そのものが「この商品は信頼に値するかも」という無言のメッセージになるからです。
レストラン検索アプリでの実証実験
スタンフォード大学のマーケティング研究者たちが20万人以上を対象に行った実証実験があります。
この実験では、アジアを中心に展開するレストラン検索アプリ「Zomato(ゾマト)」と協力して、大規模なA/Bテストを行いました。
対象となったのは、13都市の20万人以上のユーザーと600店を超えるレストランです。
実験では、ユーザーがアプリを開いたときに、以下の3パターンのいずれかがランダムに表示されるよう設定しました。
- 通常の検索結果のみを表示
- 広告を表示するが広告であることは知らせない
- 広告を表示し、さらに「これは広告です」と明記する
下2つの広告に関しては、中身や掲載位置、対象となるレストラン情報はまったく同じで、違うのは「広告であることを知らせるかどうか」だけです。
これら3パターンのうち、どれが最も問い合わせが多いかを調べました。
「これは広告です」と表示すると77%も問い合わせが増える
結果どうなったかというと、「これは広告です」と表示したときが、最も問い合わせが多くなりました。
「これは広告です」と表示しなかった広告と比較して、77%も多くの問い合わせがありました。
最も問い合わせが少なかったのが、ただの検索結果として表示された場合でしたが、「これは広告です」と表示しなかった場合とそれほど差はありませんでした。
効果が特に大きかったのは、ユーザーが普段と異なる都市でレストランを検索したときや、レビュー件数が少ないレストランを見たときです。
つまり、ユーザーがそのレストランに対して不確実性を感じているときほど、「これは広告です」という表示の効果が高まったことになります。
なぜ「これは広告です」と明かすことが有効なのか?
なぜ「これは広告です」と明かすことによって問い合わせが増えるのでしょうか?
それは、広告が「信頼できるシグナル」として機能するからです。
ネットなどで、口コミが少なくて情報がほとんどないレストランを見つけたとき、多くの人は「よく分からないからやめておこう」と思いがちです。
しかし、そこに「広告」というラベルがついていると、「この店は信頼性がありそう」「ちゃんと営業している店なんだな」と感じて、選ばれやすくなるのです。
これには消費者の持つ「広告には費用がかかる」という認識が関係しています。
もしお店のサービスや料理の質が悪ければ、広告にお金をかけてもリピート客が増えず、投資は無駄になります。
一方、質の高い店であれば、広告によって新規顧客を呼び込み、その後の評判や再訪によって広告費を回収できます。
この構造を消費者が無意識のうちに理解しているため、「広告=ある程度信頼できる店」と解釈するのです。
特に初めてのエリアで検索しているときなど、ユーザーは不確実な選択を迫られます。
そのようなとき、「広告です」と明示された情報が、他の要素よりも強い判断材料になりやすく、行動を促す効果が高まるということです。
広告はブランドを表現するメディア
広告は押しつけがましいもの、というイメージは今でも根強く残っていますが、この研究はむしろその逆の可能性を示しています。広告だとわかることが、信頼や安心感を生み、行動を後押しするのです。
実は、こうした「シグナリング効果」は、価格設定やレビュー数など、他の要素にも見られます。
たとえば、あえて高めの価格をつけることで「質が高い」と思わせる戦略や、あまりレビューがない商品の広告を出すことで「これから注目される商品だ」と期待を生むケースもあります。
ここで重要なのは、こうしたシグナルが「矛盾していない」ことです。
広告は出しているのにレビューが極端に悪い、価格が高いのにウェブサイトが安っぽい、など、発しているシグナルがバラバラだと、かえって信頼を失うリスクがあります。
発信内容の一貫性こそが、消費者の判断をスムーズにし、購買や利用につながるのです。
広告は単なる情報伝達手段ではなく、ブランドの信頼性や戦略的な位置づけを表現するメディアでもあることを忘れないでください。
参考文献:Navdeep S Sahni, Harikesh S Nair. (2020). Does Advertising Serve as a Signal? Evidence from a Field Experiment in Mobile Search.