動画広告を最後まで見てもらうには「感情の不一致」を起こさせると効果的

広告戦略では、コンテンツの雰囲気と広告のトーンを揃える、いわゆる「感情の一致(エモーショナル・コンテキスト・マッチング)」が推奨されてきました。

これは、視聴体験の一貫性を保つことで、広告への拒否感を減らし、自然な形でブランドメッセージを届けられると考えられているからです。

たとえば、視聴者が笑えるような明るいコンテンツを見ているときには、同様に明るく前向きな広告を差し込むことで、スムーズな感情の流れを作れます。

反対に、感動的なストーリーを含んだ動画の後には、しっとりと落ち着いたトーンの広告を配置することで、視聴者の感情をそのまま引き込むことができます。

しかし、「広告を最後まで視聴してもらう」という点では、動画と広告の感情が「一致していない(不一致)」ときのほうが有利であるという研究結果が出ました。

感情の一致と動画広告の効果

この研究を行ったのはミズーリ大学のアヌジ・カプール准教授らです。

この研究では、感情的に「楽しい(positive)」または「悲しい(negative)」と分類できる動画コンテンツと動画広告を用意しました。

そして、それらの動画と広告を組み合わせ、実在の動画広告プラットフォーム「VDO.AI」を通じて流しました。

「楽しい」と「悲しい」の組み合わせ

視聴者には、次の4つの組み合わせのいずれかが、ランダムに表示されました。

  • 楽しい動画 + 楽しい広告(感情一致)
  • 楽しい動画 + 悲しい広告(感情不一致)
  • 悲しい動画 + 悲しい広告(感情一致)
  • 悲しい動画 + 楽しい広告(感情不一致)

いずれの場合も、広告は本編の動画が完全に再生された後に、自動で再生されるようにされました。

これにより、必ず動画の感情を一通り体験した状態で広告を視聴することになります。

広告はスキップ可能で、視聴者が広告をどのくらいの長さ見たか(25%、50%、75%、100%)が記録されました。

最終的に全視聴者に表示された合計インプレッション数は約2500万です。

広告と動画の感情が一致していない方が視聴率は高くなる

この実験から明らかになったのは、広告と動画の感情が「一致していない」ときの方が、広告の視聴率が高まるということです。

これは「楽しい」「悲しい」のどちらのパターンでも、示された傾向です。

具体的な数字で見てみましょう。以下はいずれも、感情が一致している場合と不一致の場合での視聴率の差を示しています。

  • 25%視聴:一致 81.8% → 不一致 82.2%
  • 50%視聴:一致 72.6% → 不一致 73.1%
  • 75%視聴:一致 65.9% → 不一致 66.5%
  • 100%視聴:一致 60.6% → 不一致 61.2%

この差は一見わずかに思えるかもしれませんが、2500万回以上のインプレッションをベースにしているため、広告主にとっては大きな費用対効果の差につながります。

また、感情のズレが大きいほど効果が高まる傾向も見られました。

ただし、感情の差が極端すぎると逆効果になる可能性もあるため、適度なズレが最も効果的であることが示唆されています(いわゆるU字カーブのような関係)

なぜ感情と合わない広告ほど見られやすいのか?

感情が一致していない広告のほうが効果的だった理由は、「違和感」が視聴者の注意を引いたからです。

人は動画を見ているとき、その感情に自然と引き込まれます。

たとえば、感動的な動画を見終わったあとには、少し余韻に浸っていたり、心が落ち着いていたりします。

そこに似たような感情の広告(たとえばしんみりしたCM)が流れると、視聴体験がスムーズすぎて、広告が「ただ流れていく」存在になってしまいやすいのです。つまり、印象に残りにくいということです。

一方で、感情がまったく異なる広告が流れた場合、視聴者は「ん?なんか雰囲気が変わったぞ」と無意識に反応します。

これは脳が変化を察知して、自動的に注意を向ける「知覚的コントラスト」と呼ばれる現象です。

この現象は、マーケティングにおいては、決して悪いものではなく、むしろ「目を引くきっかけ」になります。

その結果、ユーザーは広告をスキップせずに「もう少し見てみよう」と思ったり、広告の内容に意識を向けてくれるのです。

視聴者の属性や視聴環境によっても効果が変わる

さらに興味深いのは、これらの効果がすべての視聴者に同じように現れるわけではなく、その属性や視聴環境によって変化するという点です。

たとえば、デスクトップ端末で動画を視聴している人や、週の前半(平日)に広告に接触している人は、感情が一致していない広告に対して、より強く反応する傾向が見られました。

これは、こうした環境では視聴者が比較的落ち着いた状態でコンテンツを見ており、注意力が高まっている可能性があるからです。

そのため、感情が切り替わるような広告が差し込まれると、より強い違和感を覚え、広告にも意識が向きやすくなります。

逆に、モバイル環境や週末など、より受動的またはリラックスした状態での視聴では、こうした注意の変化が起きにくい可能性があります。

つまり、感情の不一致による効果は、視聴者の「どれだけ注意を払って見ているか」にも、大きく左右されるということです。

こうした点を踏まえると、これからの動画広告の設計には、内容だけでなく、「どのコンテンツの後に届けるか」や「そのコンテンツが視聴者にどんな感情を残しているか」にまで目を向けることが求められます。

※【注意】今回の研究から分かったのはあくまで動画広告をどれだけ長く見てもらえるか?という効果です。どちらが売れるか?までは確認されていません。そのため、見てもらえる可能性が低くても、感情が一致している動画広告のほうが、販売促進効果は高いという可能性もあります。

参考文献:Kapoor, Anuj and Narayanan, Sridhar and Sharma, Amitt, Does Emotional Matching Between Video Ads and Content Lead to Better Engagement: Evidence from a Large-Scale Field Experiment (June 8, 2022).